

コート・デュ・ローヌ地方。アヴィニョンの街から北へ約40kmのところにあるヴァンソーブル村。
ここのショーム・アルノーがあります。
ヴァンはワイン、ソーブルは節酒という意味があって、あまりにも美味しいワインが造られる産地であるため、
「ほどほどにせよ」
という意味でこのように名付けられたとも言われています。
ヴァレリーは3人娘の末っ子。
彼女の父親は、本当は男の子が欲しかった…。
だからか、彼女に男子の服を着せたり、畑仕事を手伝わせるなど、まるで男の子のように育て、それが嫌で、父親と衝突することも多かったそうです。
でもそんなある日、
いつものように父に連れられて丘の上の畑にきた時、足元に広がるブドウ畑を見渡して強い風に吹かれた瞬間、全身にパワーが漲ってくるのを感じ、
「私はこの土地が好き!ここを守りたい。
ここを離れたくない。
この地でブドウを育てて、私は生きていきたい!」
心の底からそう思ったそうです。
こうしてヴァレリーは畑を継ぎ、この地でしか出せない味わいを持つワインを造ることになります。
この丘の畑というのが、後に生まれる
「ラ・カデーヌ」というワイン。
特別な年だけにしか生産されない、この蔵の最上級プレミアムワインです。
一方ご主人のフィリップは、学校の教師の家庭に生まれ育ちました。
小さい頃から土いじりが大好きな少年で、他の友達がサッカーなどをして遊ぶ中、フィリップは近所のおじさんの畑で収穫をしたり、農作業をするのが好きでした。
“将来は農業に携わる仕事がしたい”
自然とそう思うようになっていたといいます。
だから高校進学の時、迷わず農業高校を選択。
そしてそこで、妻ヴァレリーと出会うことになります。
完全にフィリップの一目惚れだったそうですよ。
話をする中で、どんどん彼女の魅力に引き込まれ、フィリップ曰く、ヴァレリーは、
「自分のやりたいことを知っている人。
そしてやると決めたら、必ずそこに到達する人」
だそうです。
彼女のその強い信念に、フィリップ自身も心を動かされ、やがて気が付くと、彼女の夢は、いつしか2人の夢になっていました。
彼女の思いに心底共感し、自分もこの地でブドウを栽培したい、彼女と一緒に素晴らしいワインを造りたいと思うようになっていたそうです。
卒業後しばらくして2人は結婚。
しかし、最初からブドウ栽培だけで生計を立てることは苦しかったため、フィリップはプレス機やタンクなどの醸造設備の販売会社に就職。
そこで懸命に働き、生活費と夢実現のための資金を稼いでいました。
ヴァレリーが家業に加わって数年目の1987年、初めて自分でブドウを醗酵させてワインを造ることに。
それまでアルノー家では、他の多くの農家同様、ブドウのままの状態で農協に売っていました。
だからワイン造りは全くの初心者。
しかし彼女には、最初から妥協がなかった。
収穫時、きれいに熟したブドウだけをカゴに入れ、そうでないものは畑にそのまま捨てるよう、収穫人たちに厳しく指示を出しました。
“美味しいブドウだけで造らなければ、美味しいワインができるはずはない”
ヴァレリーはそう思っていたからです。
今日でこそ選果を行う造り手も多くなってきていますが、当時はそんな概念すらなかった時代。
特に、農協に売る際には、重量によって買い取り総額が決められるので、重さがすべて。品質なんかお構いなし。
できたブドウは1粒も残さず収穫するというのが、当時の常識でした。
父にとっては、ヴァレリーの収穫方法は言語道断!!
畑に捨てられているブドウを見て父親は激昂し、ヴァレリーを激しく責め立てました。
しかしヴァレリーは曲げませんでした。
“本当に良いブドウだけを選ぶ必要がある”
彼女には信念がありました。そしてそれを貫いたのです!
こうして生まれたヴァレリーのワインは、実に美味しいものでした。
しかもこの1987年は、天候に恵まれず、多くの人が失敗した難しい年。
そんな年ほど、選果が明暗を分けます。
ヴァレリーの信念は正しかったのです。
「こんな難しい年に、こんなに素晴らしいワインを造ったやつがいる!しかもなんと女じゃないか!」
当時、ワイン造りは男の世界。
女性醸造家は皆無に等しく、広いコート・デュ・ローヌ全体でも、ヴァレリーでまだ2人目だったため、一気に注目を集めました。
そして何より、ヴァレリーは、蔵名に、主人フィリップの姓ショームとヴァレリーの旧姓アルノーを足して、
“ドメーヌ・ショーム=アルノー”とし、
“アルノー”の名を残したのです。
次に目指したのは、化学肥料や除草剤をやめて、有機栽培に切り替えることでした。
フィリップが学生の時に学んだ地中海沿岸の生態系に関する知識、そして、それまでの営業で出会った多くの生産者から話を聞いて学んできたことを、実践で生かす時がきたのです。
それを実現させるためにも、ビオ・ディヴェルシテ、生物多様性という考え方をとても大切にし、畑はどの区画も様々な種類の木々に囲まれ、多様な動植物が共存するという、豊かな環境が整っています。
さらに2003年ごろから、本格的にビオディナミ農法に取り組むことにより、土はより元気になり、根はさらに深くなり、自然のバランスが整ってきたと実感。
収穫時は自分の舌で、果実のみならず、皮、種の熟し具合を確認するという徹底ぶり。
醸造も至ってナチュラルです。
そのおかげで、ミネラルや旨味がタップリで、どれだけ飲んでも飲み疲れない、さらに洗練された味わいに変わってきました。
自然な栽培で造られる本物のワインは、開けるたびに印象が違います。
例えば白ワインだと、ある時はすごくライチの風味が感じられたのに、次に飲んだ時はライチというより白桃の香り…
ということがあります。
これは、ボトルの中でワインが生きているから。
その日の天候や月の引力、ワインの温度や状態によって、その味わいは微妙に変化します。
工業的に造られたワインは、こうはなりません。
培養酵母で香りや味わいがコントロールされ、いつ飲んでも変わらず同じ味わいがするように仕上げられているからです。
自然な栽培・醸造から生まれる本物ワインは常に生き続けるものであり、その時々によって多様な表情があります。
そしてそのどれもに深い味わいと愛嬌があり、決して飽きることがありません。
“今日はどんな表情を見せてくれるかな?
そんなふうにして楽しんでもらえると、造り手としてもとても幸せに思う”
と フィリップは語ってくれました。
「そして、自分のワインを選んで飲んでくれるお客様にも、ますます健康で元気になって欲しいと心から願っています」と。
心と体に染み込むワイン。
飲み飽きることなく、スーと体に入っていく感じです。
¥2,000~¥6,000
¥3,000~